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「そこにいる」ことをたいせつに。子どもと親の孤立をほどく地域の居場所

「そこにいる」ことをたいせつに。子どもと親の孤立をほどく地域の居場所

「第1回九州こども・若者おうえん助成」で助成を受けたNPO法人「そだちの樹」。困難を抱える子どもたちを社会へとつなぐ活動を展開する同法人不登校や発達特性、家庭の悩み、友人関係の不安——。学校や家庭だけでは抱えきれないtu辛い思いを抱える子どもたちが増えています。同時に、その子どもを支える親自身も、誰にも相談できず孤立しているケースは少なくありません。熊本市で子どもの居場所づくりと子育てする親の支援に取り組む「子ども若者保健室〜らしく〜」。藤戸邦子さんは、元看護師としての経験を生かしながら、地域の施設を活用した「子どもの居場所」と「親カフェ」を運営しています。特別なプログラムや指導を行う場所ではなく、「安心して過ごせる時間」と「話せる関係」を何より大切にした草の根活動。子どもと親の双方に寄り添う支援のあり方について、お話を伺いました。

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― この活動を始めたきっかけを教えてください。

病院勤務していた頃、若い患者さんが病気だけでなく家庭環境の問題も抱えている姿を多く見てきました。特に印象に残っているのは、治療が必要でありながら家庭の事情で十分な支援を受けられなかった17歳の患者さんです。またコロナ禍には自殺未遂で救急搬送される10代の子どもたちと接する機会もありました。身体の治療だけでは解決できない問題があることを痛感し、「医療の外側にある支援」の必要性を強く感じるようになりました。その後、自分の子どもも不登校を経験したことで、学校にも公的な機関にも相談しづらい親子が多くいることを実感しました。こうした経験が重なり、令和6年より「子どものいばしょ」を始めました。地域に開かれた居場所として現在の活動へとつながっています。

― ここでは子どもたちはどのように過ごしているのでしょうか。

下校時間になると、子どもたちが自然と集まってきます。低学年の子どもは宿題を済ませてから遊んだり、おやつを食べたり、工作をしたりします。高学年になると、友達同士で話し込む時間が増えるようになります。必ずしも勉強が中心ではないので「こうしなければならない」という決まりはなく、それぞれが自分のペースやスタイルで過ごします。「今日は何もしないで座っているだけ」という子もいますが、それでも構いません。学校では常に頑張り続けている子どもにとって、何もしなくていい時間は大切な休息になります。

― 高齢者施設との併設という形は珍しいですね。

施設の代表の方が活動の趣旨に共感してくださり、職員の皆さんも温かく支えてくださっています。子どもたちの元気な声が聞こえることで高齢者の方の表情が明るくなることもあり、逆に子どもが大人から社会のルールを学ぶ場にもなっています。世代を越えた自然な交流が生まれている点は、この場所の大きな特徴ですね。

― 運営する中で難しさを感じる場面はありますか。

スタッフが多くないので、子どもが一度に多く集まると対応が難しくなることがあります。特に発達特性のある子どもや学校に居づらさを感じている子どもが重なると、トラブルも少なくありません。夏休みには、感情が高ぶって椅子を投げてしまうなどの行動が見られた子どももいました。でも、落ち着いて話を聞くと「どうしてほしいのか」をきちんと言葉で伝えられることが多いのです。表面の行動だけで判断するのではなく、背景にある気持ちを受け止めることの重要性を改めて感じました。

― 子育て世代の親の支援として「親カフェ」も行っているそうですね。

毎月第2土曜日の14時から2時間ほど開催しています。YMCAの職員や大学生ボランティアにも協力いただき子どもを見守る間に、親同士が安心して話せる時間を設けています。参加者は毎回、数人程度ですが、発達特性のある子どもを持つ保護者が継続して参加しています。また、親カフェには来られないものの一対一で話を聞いてほしいという方には、個別相談にも応じています。ここでは解決策を提示することよりも、気持ちを吐き出せる場であることを重視しています。他の親の経験を聞くことで「自分だけではない」と感じられたり、子どもへの接し方のヒントを得られたりすることが多いようです。実際に、完全不登校の中学生の母親が「今日は子どもに対して優しい言葉をかけてあげられそう」と話して帰られたり、ご夫婦で参加した家庭では親子関係が改善したという報告もありました。

―活動をしていて、やりがいを感じる瞬間はどのようなときですか。

学校で心のサポート相談員として関わる仕事もしているのですが、子どもたちが私の来る日を楽しみにしてくれていると感じるときはとても嬉しいですね。不安が強く泣きながら登校していた子が、少しずつ安心して過ごせるようになったり、問題行動があった子が教室に戻れるようになったりする姿を見ると、小さな変化の積み重ねの大切さを実感します。

― 子どもとの関わりで大切にしていることは何でしょうか。

特別なことをするのではなく、「一緒にいること」です。雑談の中から少しずつ本音が出てきて、悩みや不安が言葉になることがあります。今の子どもたちは、自分で選んだり決めたりする機会が少なく、常に何かに従っているように感じます。だからこそ、安心して過ごせる場所があることが重要なのだと思います。

― 今後のビジョンを教えてください。

現在利用している子どもは学校に通えているケースが多いのですが、本当はより困難を抱えた家庭ともつながりたいと考えています。九州若者サポートネットワークの共同事業体である「社会福祉法人グリーンコープ」と連携したフードサポートやパントリーのようなサービスを通じて、非課税世帯やひとり親家庭と自然につながることができればと思っています。物資の支援をきっかけに関係が生まれれば、親や子どもの困りごとを早い段階で受け止めることができるかもしれません。地域全体で子どもと親を支えるネットワークを広げていくことが、これからの目標です。