「愛されるために生まれてきた!」すべての子ども・若者たちが思える未来を目指して。

熊本県を拠点に活動する「認定NPO法人トナリビト」。虐待やネグレクトなどにより親を頼りづらい子ども・若者の自立支援、就労支援、学習支援に尽力し、シェルター事業や居場所づくりなどさまざまな取り組みを行っています。一人ひとりに合わせた支援を通じて、子ども・若者の意見が尊重され、自分らしく生きることができる社会の実現に向けて…「トナリビト」の今を語っていただきました。
―「トナリビト」の主な活動内容を教えてください。
私たちの主な活動は、困難を抱える若者への包括的支援です。特に力を入れているのは、シェルター・住居支援事業と居場所スペース「おとなりさん」の運営です。シェルターは、親を頼れない若者の滞在場所として、食事や日用品などを提供。生活再建のための初期支援を行います。居場所スペースは、背景の異なる若者を受け入れ、彼らの自立を支援しています。どちらの場所においてもスタッフは若者を信じ、彼らの可能性を最大限に引き出すことを大切にしています。就労支援や生活再建のサポートを行いながら、若者の自己決定を尊重し、押し付けない支援を心がけています。結果として、6〜7割の利用者が一人暮らしを実現しています。

―シェルター利用者の多くは、どのような経済状況にあるのでしょうか。
シェルター利用者の多くは、極めて厳しい経済状況にあります。300円から3000円程度の所持金しかないことは珍しくありません。預貯金はほぼなく、バイト代も保護者に搾取されたり、自分の通帳にアクセスできないケースもあります。消費者金融や信用できない人からの借入れも多く、シェルター利用時、1泊1000円の利用料さえ支払うことが困難な状況です。このような経済的困窮は、虐待やネグレクト、DV(=パートナーからの暴力)などの複合的な問題と密接に関連しています。

―経済的に困窮している若者が、シェルターにたどり着く経緯を教えてください。
若者たちは、虐待や家庭内暴力、保護者による搾取、居場所のなさなど、深刻な状況から逃れるために必死に情報を探してたどり着きます。利用者の約50%は、ホームページや公式LINEを通じて自主的に連絡してくれます。以前にシェルターを利用した経験のある友人に紹介されるケースもあります。 検索エンジンで「熊本、シェルター」などのキーワードで探し当てたり、SNSや口コミがきっかけとなる場合もあるので、情報発信の重要性を強く感じます。
―シェルターの最初の2週間までは無料で利用できるそうですが、この取り組みの意義は何でしょうか。
最初の2週間までを無料にする意義は、若者の心理的安全と自己回復にあります。経済的な負担なく安心して滞在できることで、彼らはほんの少しだけ一息つくことができ、自分を取り戻すきっかけを得られます。まずはお金の心配や命の危険を気にせずに休養してほしい。精神的な余裕が生まれることで、次のステップへとつながります。利用契約を交わす際、シェルターは、九州若者サポートネットワークからの助成により、2週間までは無料で利用できることをしっかりと伝えています。会ったこともない誰かが自分のために支援してくれていることを知ることで、見捨てられていないという安心感や自己肯定感を得ることにつながっていると感じます。私たちスタッフは、この2週間を通じて若者の背景にあるものを理解し、生活再建の方針を一緒に考えます。2週間という期間は、信頼関係を築く重要な機会であり、若者の自立支援の第一歩となっています。

―2週間後からは、どのようなプロセスを経るのでしょうか。
2週間後の進路については、個々の状況に応じて柔軟に対応します。まず、若者の状況や希望を丁寧にヒアリングし、今後の行動計画を共に描いていきます。働く能力がある場合は、即座に仕事探しや面接のサポートを行い、場合によっては10か所以上も求人先を一緒に探索することもあります。生活保護申請が可能な場合もすぐに手続きを進めます。現状、行き場のない利用者には、トナリビトの運営するシェアハウスやワンルーム型住居への移行を検討します。重要なのは、スピード感を持って若者の主体性を尊重し支援することです。スタッフは、利用者の現在の希望や夢に寄り添い、肯定的な対話を心がけています。例えば、就職の相談があれば、過去の失敗を指摘するのではなく、一緒に求人を探したり、励ましたりします。若者自身が失敗を恐れずチャレンジすることを心から応援し、彼らの力を信じながら伴走しています。シェルターでの2週間が準備期間の後、生活再建が長期的に始まるケースが多いです。
―居場所スペース「おとなりさん」の特徴について教えてください。
「おとなりさん」は、多様な背景を持つ若者が自由に過ごせる場所です。親を頼れない10代〜20代前半の若者たちが明確な目的や条件なしに利用できるので、シェルター予備軍から、関連施設のOBまで幅広い層が集まります。特徴的なのは、スタッフ間で利用者の情報共有をあえて最小限に抑えている点です。各スタッフは利用者の詳細な背景を知らないので、偏見なく接することができます。若者の「知られない権利」を尊重し、その日、その時の姿を受け入れることを大切にしています。それが10〜20代の若者の自己決定の尊重や、押し付けではなく寄り添う姿勢へとつながっていると感じています。

―九州若者サポートネットワークからの助成金の使途について教えてください。
今回の助成金は、シェルター利用者の初期費用や居場所スペースの運営、食材費などに充当し、若者の安心と自立をサポートしていただきました。若者への直接的な支援に役立てることに重点を置きました。助成金だけでなく、さまざまな活動を発信することで民間企業サポーターも増やしていくことで団体の基盤強化につながる努力を続けます。
―人件費の確保は課題となっていますか?
人件費の確保は、居場所事業における大きな課題となっています。行政からの予算獲得が難しく、特に居場所事業は収入が少ないため、スタッフの人件費を生み出すことが非常に困難です。多くの団体は、寄付や助成金に依存しているのが実情です。 理想的なアプローチとしては、人件費を完全に助成金だけに頼るのではなく、徐々に団体の自主財源を確保することが重要です。持続可能な資金調達モデルの構築が今後の大きな課題です。
―同じような支援に取り組む九州内団体とのつながりについては。
若者支援に取り組む他県…特に九州内における横のつながりは本当に大切だと感じています。やはり対面での交流が良いです。年に1回でも実施団体交流会があれば、単なる情報交換だけでなく、互いの活動を理解でき、自分たちの気持ちのリフレッシュにもなります。九州の地域性を活かした、柔軟でありながら強い絆を感じるネットワークが築けることを期待しています。
