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「生きていける」を支え続ける途切れさせない若者支援のかたち。

「生きていける」を支え続ける途切れさせない若者支援のかたち。

不登校や引きこもり、虐待、精神疾患、経済的困窮——。複数の困難が重なり、社会とのつながりを失いかけている子ども・若者たちがいます。長崎県で子ども・若者支援に取り組む「認定NPO法人心澄」は、そうした若者一人ひとりとじっくりと時間をかけて寄り添い続けています。目指しているのは、「自立=支援が終わること」ではなく、必要な支援が途切れずにつながり続ける状態です。今回は、理事長の宮本鷹明さんに、活動の背景や今回の助成金の活用、そして今後の展望についてお話を伺いました。

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「心澄」が取り組んでいる支援事業を教えてください

私たちは、「一人の若者に必要な支援をワンストップで構築し、安心して成長し、社会と繋がり続けられる状態」を目指し事業を組み立てています。子ども・若者総合相談センターをスタートに就労支援(地域若者サポートステーション)、就労継続支援B型、共同生活援助(グループホーム)、アフターケアなど、複数の支援を行っています。事業数だけを見ると多く感じるかもしれませんが、実際ひとつの支援だけで十分なケースはほとんどありません。生活環境、心のケア、社会との関係など、複数の課題が絡み合っているため、それぞれに対応できる仕組みが必要になります。

行政の委託事業には明確な対象範囲があります。しかし現場では、その“対象外”の部分にこそ困難が集中していることが少なくありません。「私たちでは対応できません」と伝えざるを得ない状況に直面するたびに、対象範囲を広げるべく新たな事業を立ち上げてきました。正直に言えば、“ごめんなさいをきっかけに事業が増えた”というイメージです。

―どのような若者たちが支援を必要としていますか

虐待、不登校、引きこもり、PTSD、精神疾患、経済的困窮、LGBTQなど、複数の背景を抱えたケースが多くあります。自立を考える前に、まずは生きていくための土台を整えなくてはいけませんので、その過程には、どうしても時間がかかってしまいます。私たちはさまざまな長崎県内の様々な社会資源を利用しながら、彼らが「安心して生きられる」と感じられる状態に近づいていくことを目指しています。

支援の現場で大切にしていることはありますか

生き方は授業ではなく、日常の経験の中で形づくられていくと考えているので、実体験から学ぶ機会を重視しています。引きこもり経験のある若者が「家と職場の往復だけ」の生活にならないよう、余暇の過ごし方や他者との楽しみ方を知ることも大切です。外食を通して人との交流やマナーを学ぶ機会を設けたり、県外への旅行を実施することで人との関わり方などをリアルに体験してもらいます。それをきっかけに「こんな生き方もある」という選択肢を増やし、生きる知恵を育てていきます。

ー継続的な支援をとても大切にされているそうですね

施設利用者の中には関わり始めてから7年ほど経って、ようやく「人と関わることが大切かもしれない」と感じ始めた若者もいます。一度、土台が崩れた状態から人との関係を築くには、それだけの時間が必要です。短期間支援して終わりではなく、若者自身が何度でも戻ってこられる関係をつくること。それが最終的に自立へとつながると考えています。そのためには「自己有用感」や「自己効力感」が重要だと考えています。相談に来る多くの若者は「自分に価値があると思えるかどうか」を直接問われてもうなずけません。しかし、「これなら役に立てる」「これならできる」という感覚は、他者との関わりの中で育ちます。たとえば手先が器用でネイルが得意な子には、ネイルパーツの制作という活躍の場を用意します。すると、人と話すのが苦手でも、ネイルの作業なら自信を持てル。そうした経験が、“自分にもできることがある”という実感につながっていきます。

―組織運営で特に大切にしていることは何ですか?

「定例会」と「専門家との連携」です。私たちは総会や責任者会議だけでなく、すべてのスタッフが参加できる定例会を設け、重要事項を共有・決定しています。理事長に権限が偏ることなく責任者会議が行われるため、現場の声が反映されやすい仕組みです。また、LGBTや性教育など専門性の高い分野については、外部の専門家にも関わってもらい、多角的な支援を実現しています。個人情報の壁を越えて長崎がチームとして支援することで、偏りのない関わりが可能になります。

助成金はどのように活用されていますか

2024年に長崎市内浜町にオープンした「From1」の運営に役立てています。ケアリーバーなどの居場所にカフェを併設した新しい形です。いろんな人が行き交う場として、困りごとがある人もない人も自由に楽しむことができます。例えば何か悩みがあっても相談窓口に行く勇気はない。そんな若者でもカフェにふらりと1人で立ち寄って少し話すだけでも気が楽になるかもしれません。虐待や引きこもりの経験者もカフェで働きながら社会との接点を見出しています。働く楽しさや出会いの面白さを感じてもらえることが大切だと思います。

今後の展望を教えてください

目指しているのは、心澄というひとつの団体だけで完結する支援ではなく、地域全体で若者を支え続ける仕組みです。若者支援に関わる団体や個人は増えていますが、多くは小規模で、資金や場所の問題を抱えています。助成金を活用し、「From1」のような居場所を地域に開くことで、支援の輪が広がるきっかけとなる拠点をつくりたいと考えています。より多くの団体が若者たちを支えることができる環境を整えること。そして、支援を受けてきた若者が、やがて次の若者を支える側へ回る——。そんな支援の循環を生み出していくことが、これからの目標です。