ちいさな一歩からつながる、こども・若者支援の輪
「第1回九州こども・若者おうえん助成」で助成を受けたNPO法人「そだちの樹」。困難を抱える子どもたちを社会へとつなぐ活動を展開する同法人のスタッフ中山晃貴さん、川﨑郁美さんに、具体的な事業内容や助成金の活用シーン、そして今後の展望について話を聞きました。若者支援の最前線で何が起きているのか、現状と課題、そして未来の可能性を探ります。
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寄り添い、続けることで安心して相談できる場所へ。
ー「そだちの樹」の活動内容について教えてください。
私たちは、もともと子どもたちが緊急時に避難できるシェルターを運営していました。現在は、その経験を活かし、若者の相談窓口として、幅広い方々を対象に、生活やお金に関する相談に対応しています。特に、児童養護施設や里親家庭で育った経験を持つ若者、そして現在、家庭環境に不安を抱えている皆さんからの相談が多い印象です。若者だけでなく、年齢や今、置かれている状況に関わらず、誰もが安心して相談できる場所を目指し活動しています。
―困難を抱えた人は「そだちの樹」をどのようにして知ることができるのでしょうか?
児童養護施設を退所する高校3年生を対象に、施設を訪問し、個別面談やグループワークなどを通じて、将来の進路や今後の生活に関する相談に乗っています。学校の先生や施設の職員の方々と連携し、退所後の生活に関する情報を共有することで必要な支援につなげています。また、福岡市内の若者相談窓口や関連団体とのネットワークも構築し、連携して支援を行っています。ホームページからのお問い合わせも結構多いですね。
―相談者の抱えている問題にはセンシティブな内容も多いと思います。相談者の話を聞くときにどうアプローチしているのでしょうか。
まず「否定しない」ことが基本です。例えば、本人がその選択に至った背景や、抱えている不安や悩みを丁寧に聞き、寄り添っていく姿勢が大切だと考えています。私たちと相談者は、契約に基づくものではありませんから、電話一本のやりとりで関係が切れてしまう可能性もあります。一緒に食事をしたり、世間話をすることで少しずつ距離が縮まります。
―なるほど。最近、若者からの相談内容にはどんな傾向がありますか?
18歳になり、学校を卒業して新たな生活をスタートさせたばかりの若者は、経済的な自立や社会生活への適応に苦労しています。一度社会に出て、仕事や人間関係で問題を抱え、再び支援を必要とする若者も。特に、福岡市は他の地域からの流入が多い都市部であり、若者たちの流動性が高いという特徴があります。そのほかにも、家賃、食費といった生活費の不足、仕事が見つからないといった経済的理由を抱えた若者が多い印象です。極端なケースでは、ホームレス状態になってしまう若者もいます。DV被害など緊急性の高いケースも数多く存在します。
―相談に来る方々の中には、ご自身の置かれている状況がどの分野に該当するのか、明確に把握できていないケースが多いのではないでしょうか。
そうですね。さまざまな問題が複合的に絡み合っていることも多く、誰に相談すれば良いのか迷ってしまう方も多いようです。「そだちの樹」は、多様な問題を抱える人に対して、最初の相談窓口としての役割を担っています。しかし、全ての課題に対して、私たちだけで解決できるわけではありません。相談者の方と一緒に、適切な支援機関を探し、必要であれば同行して手続きまでをサポートします。
経済的な不安を解消し、心も満たす支援を。
―子どもたちや若者からの相談と向き合いながら、今回の助成金を具体的にどのような部分に活用されていますか?
主に医療費の支援や食糧支援などですね。医療費に関しては、住民票が県外にある妊婦さんは、福岡県内の医療機関で検診を受ける場合は基本的に全額自己負担となります。しかし、後から申請することで、払い過ぎた医療費が戻ってきます。だから、検診費として上限1万円をお渡ししています。 食糧支援に関しては、生活に困っている人に必要な食料品を届けるのはもちろんですが、自宅を訪問することで、困っている状況や、健康状態を把握し、より適切な支援につなげたいと考えています。例えば、食品の配達時に、ご本人と会えることで、健康状態に問題がないか、生活環境に改善が必要な点がないかなどを把握することができます。
―支援を受ける人の生活状況や困りごとを理解し、より深い支援につなげたいという思いが伝わってきます。
彼らにとって医療機関までの交通費も大きな負担になるので、病院までの費用するケースもあります。また、「そだちの樹」に来訪してもらうための交通費として使うことも多いです。まずは、相談に来てもらわなければ次につながりませんから。この助成金を通じて、相談者との関係を深め、継続的な支援へとつなげていきたい。家賃などの滞納を支援したり、金銭的な不安を解消することで、気持ちが楽になったり、新しい一歩を踏み出すきっかけになったりすることもあります。一時的な支援が、大きな変化につながることもあるんです。ただ、お金を渡すだけでは、根本的な解決にはなりません。彼らが自立できる力をつけられるよう伴走することが大切だと考えています。
―9サポは、若者が「はたらく」ことに対して前向きになれる支援を考えています。働かないと苦しい状況なのに、なかなか仕事が見つからなかったり、続かない要因は何だと思いますか?
最初の就職活動でつまずいてしまい、その後もなかなか良い仕事を見つけられないケースや、新卒で入社した会社で人間関係がうまくいかなかったケースなどが多いようです。つまり、最初の就職活動が、その後のキャリアに大きな影響を与えるということです。最初の就職活動で良い経験ができれば、自信を持って次のステップへと進んでいくことができるでしょう。また、「そだちの樹」が、就職でつまずいたとき、働き方について気軽に相談できるような場所でありたいと思っています。
助成でつながり、ひろがる支援の輪
―9サポの活動で面白いと思ったことや期待していることなど、何かご意見やご感想はありますか?
9サポのシステムは、困っている本人だけでなく、支援活動を行っている団体へのサポートに力を入れている点が特徴的ですね。さまざまな団体が助成枠を活用することで、より多くの困っている人に支援が届く仕組みが構築されていくはずです。 福岡市・天神の警固公園には、夜間を中心に10代~20代の若者が多く集まり、「警固界隈」などと呼ばれています。若者が犯罪に巻き込まれることが増え、彼らを支援する団体もあります。そういった団体が助成を受けることで、より幅広い支援を受けることが可能になるのではないかと感じています。
―助成制度を利用する際に「使いにくい」と感じることはありませんでしたか?
「どう活用しようか?」と感じたぐらい、用途の自由度が高かったです(笑)。一般的に助成金は、限定的な用途でしか活用できないことが多いのですが、「九州こども・若者おうえん助成」は、幅広い用途で活用できるので、支援の幅が広がると感じています。 今後は、さまざまな団体の取り組みを共有する交流会や座談会などの機会を設けることで、各団体のノウハウや事例を学び合うことができます。各団体がどのような活動を行っているのかが可視化され、他の団体が新たなアイデアを得るきっかけとなるのではないかと感じています。
―他団体との交流で知りたいこと、やってみたいことはありますか? 子どもや若者の支援は、各施設だけでは解決できないことが多くあります。そのため、私たちの支援機関だけでなく、福岡市内にたくさんあるフリースペースや相談窓口などを紹介しています。困難を抱えた若者が「今日は〇〇に行ってみよう」といったように日によって違う場所に足を運ぶことで、自分に合った居場所を見つけやすくなるでしょう。外部機関と連携することで、より専門的な支援が必要な方にも対応できるようにしていますし、連携を通じて、困っている人が安心して相談できるような、より良い支援体制を築いていきたいと考えています。