愛を育み、共に歩む若者たちの安心な未来

「第1回九州こども・若者おうえん助成」を受けた佐賀県小城市の重症児・医療的ケア児の支援事業所「一般社団法人あまね」。代表理事を務める大野真如さんは、子どもたちが地域で暮らしていくことを第一に考え、活動を続けています。「勝嚴寺」の僧侶(勝嚴寺のご住職と結婚後、得度・出家され、日蓮宗僧籍取得)、看護師として医療の最前線での勤務経験、実戦空手道場白蓮会館九州本部長など、多岐にわたる自身の活動から生まれた子どもたちへの深い愛情。その熱い想いを深く掘り下げていきます。
一般社団法人あまね 代表理事 大野真如さん
絆を紡ぎ、心を繋ぐ場所として誰もが安心して暮らせる社会を
―「あまね」の活動について教えてください。
私たちは、放課後等デイサービスや生活介護施設「いーはとーぶ」と、医療的ケア児を重層的に支えるサービス拠点「あまねくいっさい」を運営しています。特に、医療的ケアがあることで地域社会から孤立することのないよう、子どもたちとご家族のために私たちができることを考え、尽力しています。
―「あまね」という名前の由来は何ですか。
「あまねく」とは、仏教の経典に登場する言葉で、「全てを平等に一人も漏れることなく全てを仏の世界に入れさせてあげたい」というお釈迦様の願いを表しています。この願いは、私たちあまねの理念である「どんなに重い障害があっても、地域で安心して最後まで暮らすことが出来る社会の実現」と重なります。
―大野さんが「あまね」を設立するきっかけは何だったのですか。
幼い頃、近隣に障がい者の大型入所施設があり、障がいのある方々と自然に接してきました。大人になり社会に出ると、看護師時代に子どもが産まれても親が引き取りに来ない、僧侶となった最初の葬儀が障がいを抱える方の葬儀で、施設の職員しか身寄りがないようなこともありました。障がいを持つことで、親との絆や社会とのつながりが希薄になってしまうという、悲しい現実を目の当たりにして「誰もが安心して暮らせる社会を創りたい」と強く思いました。それが一般社団法人「あまね」の設立につながりました。


労働ではなく、“生き方としていのちの尊さを守り、育んでいく
―日々の活動の中で、大切にしていることは何ですか?
私は常に「どんな障がいがあっても、地域で暮らしていけることが大切」だと感じています。かつて、医療的ケアが必要な子どもたちが地域で暮らすことは、とても難しい時代がありました。大きな施設で暮らすしか選択肢がなかったのです。医療的ケア児に関する制度が整い始めたのは、ここ10年ほど。医療が必要な親も介護状態、子どもも介護が必要な状況にある場合、親子で利用できる施設やショートステイ、24時間体制の見守りなど、さまざまな支援が整いつつあります。しかし、これらの制度が整う前から私たちは「ご家族に必要とされることは全てやる」という気持ちで、制度を超えた取り組みを続けています。
―立ち上げ当初から変化を感じたことはありますか?
医療的ケア児のご家族は、本当に愛情深い方ばかりです。「この子よりも一日でも長く生きていたい」という言葉をよく耳にします。どんな状況にあっても、子どもたちを愛していることが伝わってきます。私たち「あまね」は、そんな子どもたちや家族に必要なものを創り出していくことを目指したい。職員たちと対話を重ねる中で、労働ではなく、“生き方として”この仕事に向き合いたいと強く思うようになりました。その結果、今では、現場が自立し、良い循環を生み出す組織へと成長できたと実感しています。「あまね」の活動を通して、私はたくさんのことを学びました。それは、単なる「労働」ではなく、人として大切な何かを追求することの素晴らしさです。そして、その経験は、私自身を大きく成長させてくれました。

愛でつなぐ、未来への架け橋。共に生き、つながりを築く喜びを
―大野さん自身も里親だとお聞きしました。
里親を始めるきっかけは、愛を知らない子どもや若者の存在を知ったからです。だったら私が愛します…
と。住職である夫が「ビートたけしさんの言葉で、仕事とか役割っていうものは、自分がこうしたいとかああしたいとかじゃなくて、巻き込まれていくことなんだよ。僕も気づいたら、自然と君に巻き込まれていたみたいだ(笑)」と話してくれました。私だけで足りない時には、夫も周りの人たちもみんな巻き込んであなたを愛します。そんな気持ちで里親になることを決めました。子どもたちとは時々、衝突もするし、睨まれたりすることもあるんですよ笑。でも他愛も無い日常の中で、少しずつですが子どもたちは変化していきます。愛された経験のないからこそ「確実な伴走者」が必要です。少し相談を聞いてではなく、どんな嵐でも絶対に手を離さない。そんな伴走者をめざしています。
―今回の助成金をどのように活用されましたか。
今回の皆様からの温かいご支援により設立された「第1回九州こども・若者おうえん助成」のおかげで、共同生活で使用する生活家電(炊飯器・冷蔵庫・洗濯機)を購入できました。自炊ができない状況だった若者が、毎日ごはんを食べることができるようになり生活が安定してきたと感じています。これまで夫婦二人で若者たちのサポートを行ってきましたが、この度、法人として新たな一歩を踏み出し、「児童養護施設、自立援助ホーム退所者等の社会的養護の下を巣立った若者たちの就職後のアフターフォロー」事業を開始することになりました。児童養護施設や自立援助ホームを退所した若者たちは、経済的な自立だけでなく、社会とのつながりを築くことにも苦労しています。そうした若者たちが安心して社会生活を送れるよう、私たちならではのきめ細やかな支援を届けていきたいと思います。

