柔軟性と継続で若者の自立を支える。沖縄から発信する社会的養護のあり方

沖縄県で若者の自立支援活動を行う「一般社団法人ある」。若者のアフターケア相談室「にじのしずく」をはじめ、シェルター運営、食事支援、就労前準備支援など多角的なアプローチで一人ひとりの「あるがまま」を大切に活動を続けています。そこで見えてきた沖縄の若者たちの現状と、支援における柔軟性の重要性について、具体的な事例を交えながら語っていただきました。

―今回の助成金への応募のきっかけを教えていただけますか?
「九州各地の団体を応援する民間ネットワークが新しく立ち上がる」という話を聞いて、すぐに手を挙げることを決めました。いちばん魅力を感じたのは助成金の柔軟な使い方。これまでの助成金は使途が限定的なものが少なくないのですが、九州若者サポートネットワーク(9sapo)の助成金は自由度が高く、私たちの活動に本当に必要な部分に充てられると感じたからです。
―助成金に関して、どのような部分で自由度を感じましたか?
私たちの仕事はかなりの部分でスタッフの動きが重要になります。そうなるとやはり人件費の部分が大切になるのですが、通常の助成金は人件費に充てられないことがよくあります。社会的養護自立支援の中では、支援対象者と日常生活で伴走することが求められます。今回の助成金は若者たちの生活を支えるうえで、本当に助かりました。

―若者おうえん枠(20万円)と活動おうえん枠(100万円)の使い分けについて教えてください。
若者おうえん枠の20万円は、主に個人的な支援に活用しました。1人あたり5万円程度を家賃の滞納や携帯電話の未払いなどの問題を抱える4人に分配し、9月から10月にかけてほぼ使い切りました。一方、活動おうえん枠の100万円は、シェルター事業に充てました。2016年から運営していたシェルターを継続、拡大することで持続可能な地域拠点型シェルターの運営を目指しています。20万円は緊急的な個人支援、100万円は活動基盤の強化。それぞれの枠の特性に合わせて活用できました。
―支援対象となる沖縄の若者たちが直面している課題について、具体的に教えていただけますか?
沖縄は就労や生活面でも課題が多く、初任給も低くおよそ15万くらいです。若者が病気や生活環境の問題で職を失ってしまうと、貯金が多いわけではないので、すぐにお金が底をつきます。本当に生活困窮に陥るスピードが速い。そうなると18歳でクレジットカードが作れるようになってからはカードローンに手を出してしまう。そこからどんどん悪循環に走ってしまい消費者金融からお金を借りたり、それを返済するために風俗系のアルバイトを始めたりするケースも少なくありません。若者自身が社会保障制度を知らなかったり、利用できなかったりすることも多いのが実情です。また、複雑な家庭背景を抱えている方も多く、成人した後も、年下の兄弟姉妹に自分と同じ苦難を味わわせたくないという強い思いから、経済的に厳しい状況でも自分だけでなく、家族を支えようと無理をしてしまうのです。
―シェルター運営について、特徴的な取り組みを教えてください。
シェルター運営で重要視しているのは、単なる居場所提供にとどまらない、きめ細かな支援です。まず、入居時に具体的な目標を設定し、その実現に向けたステップを支援するスタッフが一緒に考えます。日中は就労前準備支援や保育園でのお手伝いなど、スキル獲得の機会を設け、わずかであっても就労支援金の1000円を支払うことで就労意欲を育てます。また食事を共にすることを大切にしています。そこから自然なコミュニケーションが生まれ、料理を作ること、食事を楽しむことを通じて自己肯定感を高める工夫もしています。セキュリティ上の懸念から、居場所を1か所に固定せず、複数の地域に設けるなど、利用者の不安や困りごとに応える柔軟な運営を心がけています。
―食事支援の取り組みについて教えてください。
食事支援は、単なる食生活の安定だけではない意味を持ちます。施設では、旬の果物や季節の料理など、若者が好きな食材を提供するなど「心の栄養」も大切にしています。例えば、ある若者が「入所中の台風の日に食べたインスタントラーメン」を思い出として語ってくれたことをきっかけに「金ちゃんラーメンの会」という取り組みが生まれました。生地から作るピザや手作りスイーツをみんなで集まって楽しみます。料理を一緒に作ったり、食べたりするなかで、自然と本音が語られるようになり、スタッフや利用者同士の信頼関係が築かれます。「自分を大切にしようね」という思いを食事を通じて伝えられていますね。過食嘔吐の課題を抱える若者がいたのですが、愛情を込めて作られた卵焼きは美味しそうに食べてくれます。心と体の両方が回復していることを実感します。

―今後の展望について教えてください。
今後の展望として、主に3つあります。まずはシェルター事業の継続と拡大。現在、助成金を活用しながら、新たな拠点づくりを進めています。その場所が今後、九州の各県ともつながれるネットワークになるといいなと思います。ふたつ目は当事者の声を社会に届けること。支援を受けた若者自身が社会の仕組みづくりに参画し、自らの経験を通じて制度改善を提言する機会を作りたいと考えています。 最後は心理的ケアの充実。2019年から関わった若者が25歳と家庭を持つような年齢になり、トラウマケアの必要性をより感じるようになり、やっと昨年から心理士の配置ができるようになりました。これまで以上に深い心理的サポートを提供し、彼らの自立と社会復帰を支援していきたいと考えています。