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行き場を失った子どもの“安全地帯”に。シェルターが守る、大切な命と未来

行き場を失った子どもの“安全地帯”に。シェルターが守る、大切な命と未来

虐待や家庭環境の問題によって、自宅で暮らし続けることが難しくなった子どもたち。学校にも行政にも頼れず、行き場を失ったとき、最後の安全な場所として機能するのが「子どもシェルター」です。特定非営利活動法人 佐賀子ども支援の輪が運営する「佐賀子どもシェルター ばるーん」は、佐賀県で唯一の子どもシェルターであり、九州各地の居場所がなくなった子どもたちの緊急避難所。今回は、元警察職員(少年補導職員)として25年間に渡り子どもたちに寄り添い続け、現在は施設長としてシェルターの現場に立つ松隈智子さんに、シェルターの役割や支援のあり方、助成金を活用した新たな取り組みについてお話を伺いました。
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「佐賀子どもシェルター ばるーん」は、どのような役割を担っていますか

24時間365日稼働するシェルターで、親からの虐待や家庭内トラブルなどにより、家にいられなくなった子どもたちを緊急保護しています。4年間で53人の子どもたちを保護・支援してきました。子ども自身が「もうこの家では暮らせない」と電話してくることもありますし、学校の先生が子どもから相談を受けて児童相談所につなぎ、保護先が見つからない場合に連絡が来ることもあります。高校受験に失敗したことをきっかけに、行き場を失って夜間に徘徊するうちに危険な環境に入り込んでしまい、最終的に助けを求めて来る子どもなど彼女ら自身が置かれている状況はさまざまですね。

「ばるーん」の特徴的な取り組みについて教えてください

常勤・非常勤を合わせて約10名のスタッフが関わっています。それぞれ得意分野が異なるため、役割を持ち寄りながらチームとして支援にあたっています。互いを尊重し合う姿勢は、子どもたちにも伝わり、自分自身を大切にする感覚につながっていきます。また、入所した子どもたち全員に、担当の弁護士が就きます。これまで守られる立場にいなかった子どもにとって、自分の味方がいるという実感は大きな意味を持ちます。生活環境や今後の進路が整うまで、弁護士と共に現場スタッフが調整を行い、安心して次の一歩を踏み出せる状態になるまで見守ります。

九州でのシェルターの状況はいかがですか

 かつてはシェルターは各県にありましたが、現在、九州で機能している子どもシェルターは佐賀県と沖縄県のみです。そのため、長崎、熊本、宮崎、福岡など各地から保護要請が寄せられています。広域での受け入れは必要不可欠ですが、県外の子どもを受け入れる場合は補助制度の調整が必要になるなど、運営上の課題も少なくありません。

「ばるーん」の場所は非公開だとお聞きしました

1はい。シェルターは秘匿施設です。保護している子どもが危険な状況にある場合、場所が知られることで連れ戻されたり、危害を加えられたりする恐れがあります。そのため、所在地は公開しておらず、事務所住所も別に設けています。子どもたち自身も、この場所を守るために外部に情報を漏らしてはいけないことを理解しています。

今回、助成金を活用して新たな拠点を作られたそうですね

シェルターは安全が確保されていますが、自由に外出したり、多くの方と交流できる場所ではありません。そこで、退所後も安心して戻ってこられる居場所として、また多くの方にシェルターの存在意義を知ってもらうために、ばるーん第2の居場所「おむすび」を地域の小学校跡で始めました。ものづくりや陶芸、料理、子どもの権利やヤングケアラーについての学習会、当事者の語りの場など、多様な活動を定期的に行っています。学びだけでは参加者のハードルが高くなるため、食事を共にしながら等、参加意欲を盛りあげ、自然に理解を深める形を大切にしています。また、シェルターの子どもたちと一緒に作品作りをし、参加者に提供していますが、自分たちの手で作ったものが誰かに喜ばれる経験は、大きな自信につながります。

「おむすび」には学校関係者も参加されていると伺いました

大学の教授や養護教諭の先生方にも活動をサポートしていただいています。学校で子どもたちの異変を最初に察知するのは、保健室の先生であることが多いので、まずは養護教諭にばるーんの存在を知ってもらうことで、緊急時に迅速に支援につなぐことを目指しています。

松隈さんが「ばるーん」で支援活動を始めた理由を教えてください

警察職員(少年補導職員)として少年支援に関わる中で、制度の限界を感じました。どれだけ深刻な状況でも、最終的には家庭に戻さなければならない場合も少なくありません。危険だと分かっていても、それ以上の対応ができないことに強い葛藤がありました。現在は子どもと生活を共にしながら、日々の変化に応じた支援ができることに大きなやりがいを感じています。

子どもたちと向き合ううえで大切にしていることは何ですか

子どもの中にある「自分で生きる力」を信じることです。シェルターでは、子ども同士の衝突をすぐに止めるのではなく、なぜ起きたのか、どうしたいのかを自分で考える機会として捉えます。傷ついた経験から他者を信じられない子どもも多いです。それでも「あなたでいい」と伝え続けることで、少しずつ安心感が育っていきます。